生存科学研究所設立趣意書
21世紀に向う現在、産業活動、社会生活様式等の大幅な変質、変動に伴い、人間の健康(全人格的)な生活を、精神的、肉体的、社会的、文化人類学的に阻害する要因が生じつつあり、更にはこれに人口構造の高齢化に伴う諸問題も加わって、人類の生存秩序を不安定にする要因が増大してきています。今後、このような状況に適切に対応し、人類の健康な生存秩序を確保するためには、生存基盤を整備確保することが不可欠であります。
このためには、まず人間の全ライフサイクルを通じての総合的な健康投資(バイオ・インシュアランス)モデルの確立とそのための医学の進歩が重要です。このモデルは遺伝、免疫、代謝、生理機能バランス、成長、老化等人間のライフサイクルの事象に関する、あらゆる角度からの各種基礎データに基いたものでなくてはならず、各種基礎調査、データの収集および分析を行い、健康投資に関する調査研究を進めることが必要であります。
次に、地球的な立場からの医療資源の開発と配分に関する調査研究等を通じ、市町村レベルから大陸レベルに至るそれぞれの地域における生存基盤を確立することが重要です。この生存基盤は、地域の地質、気候、動植物分布等の地理学的な側面と地域の人口、民族特性等との調和により成り立つものであります。したがって、これらの自然科学的な総合的調査研究及びその分析・評価を通じ、地域における最適な、社会、経済、行政、保健医療システム等のモデルを開発し、その成果を巨視的な観点から、地域開発の企画等に活かすこと等が重要であり、このような、地域に関する多種多様の専門的調査、分析・評価研究等が必要とされます。
以上の調査研究の内容は、人類の生存にとって基本的ファクターですが、更に、哲学、倫理学、法学、社会学、経済学等人文・社会の諸科学からの視点にも合わせた、いわゆる健康科学の立場から総合的な、生存モデルの確立を図り、人類の健康な生存基盤を構築することが重要であります。この総合的な生存モデルは、この新しい理念に基づいたコミュニティにおける、最適な就労・就学サービス、保健医療サービスや産業の構造・形態・活動と医療経済等との運営バランス等実践応用的な面を含むものであります。
また、これらの研究開発は、従来の研究開発に不足していた健康な人類生存条件の確保に対する条件整備を求めるものであり、21世紀に向って、人類の健康な生存基盤を整備確保しようとするためには、これらを踏まえた総合的な健康政策を樹立する必要があります。
事実、これらにかかわる調査研究については、既にあらゆる方面から要望が出されていますが、現在の我が国には、地域開発等に伴う人間の健康な生存条件についての総合的な研究開発を受託できる機関は皆無であります。
人間の健康な生存こそあらゆる活動の基本であります。この人間の健康な生存条件を確保し、その基盤を確立するためには、地球的規模での調査研究が前提となります。このためには、国際的な教育研究機関等との連携の下に、長期的にも短期的にも人類の健康な生存を確保し得る高度な科学的手段の研究・開発や、地域開発の企画等に活用できる応用技術の研究開発等を行う研究機関が必要不可欠であります。
このような趣意から財団法人生存科学研究所の設立に至ったものであります。
1984.3.22