生存科学について

 近時における科学技術の目覚ましい発展は、『生命』を対象とする新しい科学、即ちライフサイエンスの確立を促し、数多くの成果を挙げつつあるしか し、最近における生態学・遺伝子工学などの驚くべき進歩を眺めるとき、改めて人類の『生存』を正面から採り上げざるを得ない状況になっており、しかも既存 の科学方法論に拘泥する限りこの状況に対応できないことは明白である。

 凡ての科学は『生存』問題を前にして古典的な閉鎖的枠組みの編成替えを強いられており、自然科学と社会科学という区別すらも止揚 して―医学、物理学、化学、工学などは勿論のこと、経済学、法律学、政治学なども含めて―あらゆる領域から総合的に『生存』問題に取り組まざるを得ない し、諸科学の基礎であり、諸科学の成果を実生活に定着させるための哲学、倫理学もまた、その内容を問い直さなければならない段階に達しているといえよう。

 かくて、我々は人類の『生存』という概念を起点とし、科学技術を中心に社会科学、哲学などあらゆる学問の成果を結集して『生存』の形態・機能をマクロ・ミクロの両面から探求し、それらを総合的に把握する新しい生存科学を創造確立することが必要であると考える。

 そして、このような生存科学の裏付けがあってこそ、初めて未来の人類の生存秩序の確立と福祉の実現が可能となるのであり、生存科学という視点からの取り組みが遅れれば遅れるだけ人類の幸福は遠ざかっていくといえよう。

創設者 武見太郎先生

創設者 武見太郎先生